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『和製漢字の小辞典』1〜3画
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- 【々】 同じ漢字が続くときに使われる記号。苗字や地名にも使われるので、和製漢字(国字)といっていいだろう。『大漢和辭典』に「同一文字疊用の記號」、『中華字海』に「音義待考。字出《北大方正漢字内碼字典》」とある。北大とは、北京大学のこと。日本向けの書籍に使われるのであろうか。「々」は、中国で同じ文字を繰り返すことを意味する「二の字点」が、日本で変化したものといわれている。「二の字点」は、日本なら「青々」と書く例なら、「青」の右下に、小さく「二」と書いて、「青」をもう一度繰り返すことを意味するという使い方をする。『
JIS X 0208:1997』の46頁に日本語通用名称「繰り返し記号」、名前「IDEOGRAPHIC ITERATION MARK」とある。日本語通用名称は、「参考であって規格の一部ではない」とある。名前は「図形文字の名前(本体5.3参照)」とあり、「名前 この規格では規定する全ての文字に対して名前を割り当てる」とあるから、「IDEOGRAPHIC ITERATION MARK」がJIS規格上の正式な名前といえる。しかし通常は、通称名の「繰り返し記号」で差し支えないであろう。『JIS漢字字典』本文2頁には、「(繰り返し記号)おなじ くりかえし のま」と読みがつけてある。部首については規格書では「仮名または漢字に準ずるもの」として漢字とはしていないので部首の考え方は出てこない。漢和辞典では『現代漢語例解辞典』(小学館)がこの考えを引き継ぎ「非漢字部」として、1400頁の親字番号9701にあるが、次の9702(初版では、1380頁の親字番号9640にあるが、次の9641)とも漢和辞典としては、この字に対する最も詳しい解説がある。この辞典の解説に付け加えるとすれば、「々」自体、「二の字点」から9641の字形を経てできたという説があるということぐらいである。漢字として扱うものとしては、『漢語林』(大修館)などでは「ノ部」になっており、『和製漢字の辞典』でも「ノ部」にした。福井大学教育学部国語科の岡島昭浩氏のページで、おどり字に関する文部省の通知(21年3月とあるが案で施行されなかったようである)の中に「同(どう)の字點」とある。(どう)は現物ではルビである。他に「ゝ」を「一ツ點」、「〃」を「ノノ點」、「く」を縦にのばしたような形で二文字以上繰り返すことをあらわす記号を「くノ字點」、「〃」を左右逆転して続けて書いた字形を「二ノ字點」としている。「くノ字點」・「二ノ字點」の「ノ」は、「の」とも書かれている。『解説字体辞典』は、「くり返し符号などと字体」の項で、「楷書の中でのくり返し符号の用い方と、1字の中にくり返し符号が組み込まれている漢字について説明する」として実例を示して詳しい説明をしている。「々の符号はいつ頃から使われたものか、はっきりわからない。明治以降、現在の活字印刷とともに生まれたのではないかと思われる」とある。(このことは、後に示した節用集からの引用により誤りであることがわかる)また「楷書には、くり返し符号を混ぜていない」として多くの実例を示し、例外として「東大寺献物帳」をあげ、このような例は、「中国にも、我が国の江戸時代以前にも例を見ない。」とするが、「行書では、くり返し符号を使ってもよい」とする。なお多くの実例を挙げた後に、「々は、伝統を重んずるものや、行書の中には書かない方がよく(下略)」とし、行書の場合に書くべきくり返し符号の形を実例によって示す。『解説字体辞典』の著者は、文部省において書写書道を指導してきた立場の人であり、退官後もその中心的な立場にある。そのためか、常用漢字表の字体は、ある程度尊重しているが、『康煕字典』の流れを汲む漢和辞典の字体には反対の立場であり、『康煕字典』において俗字とされているものも、伝統的な楷書の形、書写体として尊重していることが多い。このことを理解のうえ使用するのであれば、実例も多く参考になると考えられる。『臺語大字典』は、記号と考えているためか、親字としては、立項していないが、音が同じことをあらわすために本文のほとんど全てのページに用いられている。手書きの字典であるため、「〃」、「々」、その中間的な形のものとがあるが、いずれにしても、「々」が、相当数使われていることには間違いない。著者は、1946年生まれで、日本の植民地教育の影響も受けていないと考えられるため、「二の字点」が、日本で変化したものでない可能性もある。『大谷大学本節用集』に「佐々嶋磯 サヽシマノサキ」また「和布耳 メミ々」、『合類節用集』に「寸々 ズンズン」とある。くり返し符号は、現在普通には、ひらがなの場合「ゝ」、カタカナの場合「ヽ」、漢字の場合「々」と使い分けられているが、『大谷大学本節用集』の後の例では、カタカナに「々」が使われており、未分化であったのだろう。
【丼】 『説文』の「井」の隷書体と同形であり、「どんぶり」は国訓と考えられる。『学研漢和大字典』は「容器の中に食べ物のはいった姿を描いた象形文字。中国固有の丼(セイ)とは関係がない。」として国字とする。このような考え方にたてば、同形であっても意味的に中国のものと完全に異なる場合は、国字とされる可能性が高くなる。「椿(つばき)」など国訓とされる多くの文字について見直しが必要となるが、見直しが行われているようには見られない。「丼(どんぶり)」の字のみのようである。同書のハンディ版『漢字源』の最新版は同様の解説をしながら、国字とはせず、「日本語特有の意味」をあらわすマークをつけている。
【〆】 普通には「シメ」と読む国字だが、苗字に〆渡(ぬきと ぬくと)がある。地名でも「シメ」と読むことが多いが、宮城県桃生郡桃生町に十〆西(じゅっかんにし)がある。これは「貫目」のことを「〆(かんめ)」とも書くことによるのだろうか。
【会】 『漢語大字典』・『中華字海』に「會的簡化字」とあるが、『中華大字典』にはない。
【伝】 『中華字海』は『白虎通』から引用するが「音義未詳」とする。日本の文字とは関係ないと考えられる。「傳」の和製異体字か。『漢韓最新理想玉篇』に「傳略字」とあるのは、日本の用法が伝わったものか。
【価】 『国字の字典』が『文教温故』を引き「西仏」の意の国字とする。『名義抄(観智院本)』に「ユク」、『字鏡鈔』に「火季反 ユク」、『篇目次第』に「サ反 ユク」とある。『漢語大字典』が『改併四聲篇海』を典拠に「音似。像」、『中華字海』が『字彙補』を典拠に「同似」とする。『名義抄(観智院本)』などの「ユク」の訓があるものは、「価」の「にんべん」を「ぎょうにんべん」にした文字の異体字、常用漢字の「価」は「價」の異体字から採用されたものといずれも意味的にも字源的にも異なると考えられるが、国字とするのは問題がある。
【俤】 『書言字考節用集』に「ヲモカケ 本朝俗字」、『異體字辨』に「オモカゲ」、『同文通考』に「ヲモカゲ」、『和字正俗通』に「ヲモカケ」、『國字考』に「オモカケ 万葉集には面影と出り(中略)いと近き代に造(下略)」、『倭字攷』に「オモカケ 和爾雅」、『和漢三才圖會』に「ヲモカケ 爲面影之訓」、『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「オモカゲ」とある。『和爾雅』には、「倭俗ノ制字」として「ヲモカゲ 面影ノ字佳シ」とある。中国の漢字規格にあり、『漢語大字典』は梁啓超の『中国歴史研究法』を引くが、日本字とする。『古壮字字典』に「同伴」の意であるが、典拠もなく、詳しいことはわからない。国字としていいだろう。
【俥】 明治5年11月14日付け東京日々新聞に「[馬+車]と俥の文字」の見出しで「方今文明の際凡そ事簡易にして、明解なるを尊ぶ、因って爾後馬車を[馬+車]と書し、人力車を俥と書し、文書往復し、文路の諸君それ之を記せよ。大簡堂主人誌。」とある。これによって人力車の意味で使われ始めたのは、人力車が発明された明治2年からこの記事の明治5年の間であることがわかる。中国で使われる船上動力機器の簡称としての用法は、1975年10月14日の『解放軍報』が初出もしくはそれに近いもので、それを使う機関士の尊称としての用法はなお新しい。始期が明らかでないが仏教で(儀軌)の略字としても用いられており、誤字とはされるが『令集解』にも使われている(新訂増補國史大系『令集解』第二286ページ頭注に「俥[孫−系+亥]、印本作陳訴」とある)ことも考慮しなければならない。中国象棋の駒の名称の一つとしての用法は、増川宏一著『将棋の起源』に「13世紀頃以後は敵味方の駒の表記が異なり、一方は相、師、仕、俥、[休−木+馬]、炮、兵で、他方は象、将、士、車、馬、砲、卒になっている。」とある。そうすると国字とはいえなくなる。国訓とするのが適切であろう。なお、尾崎紅葉が作ったとする俗説があるが、明治5年でも紅葉は6歳であり、まともな検討の余地がないのは当然のことである。『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「ジンリキ」、『大字典』に「國字 クルマ 人力車 會意 最近の國字にして人力車のこと。」、『新修漢和大字典』(國字)に「くるま」、『新大字典』に「国字 〔会意〕 くるま。人力車。明治時代にできた国字で、人力車のこと。」、『大漢語林』に「国字 くるま。人力車。」、『漢語林』・『旺文社漢字典』に「国字 くるま」など、いずれも同様な解説で、仏教略字や中国象棋の駒としての用法を知らないが如く取り扱っていない。現代中国での新しい用法は別として、位相的に使用範囲が限定されるといってもこの2つの用法は、無視すべきではない。
【俣】 丹羽基二著『日本姓氏大辞典』などに多くの苗字があげられているが、「俣東(のなみ)」以外は「また」と読む。『倭字攷』に『古事記』などを典拠に「マタ 股」とあり、『国字の字典』が「又」の意の国字とする。笹原宏之著『異体字・崩し字に字源俗解を介した漢字の国字化』に「国字は元来、日本で作られた漢字をさす。しかし、漢字の異体字や行書体・草書体が日本で楷書として固定化したため国字とよばれるようになったにすぎないものがある。各氏が説く「俟」>「俣」「[俣−天+矢]」などの説が知られる」とある。『原本玉篇』を簡略化して作られたといわれる『篆隷万象名義』もこの字形であり、書写の影響も否定はできないが、中国から入ってきた当初からこの字形であった可能性もある。「俟」の隷書体にもあり国字とするのは問題がある。『運歩色葉集』に「マタ」、『篇目次第』に「牛矩切 キュ反 ク反 ヲホキナリ」、『音訓篇立』に「ク音 マタ イタム マツ」、『合類節用集』に「二俣 ふたまた」とある。[俣−天+矢]参照。
【倹】 『中華字海』に「同儉。見日本《常用漢字表》」とある。また「剣 同劍。字見《宋元以来俗字譜》」とある。このことから和製異体字ではないことが類推できる。
【俣−天+矢】 『大漢和辭典』に「國字 また。俣に同じ。」、『広漢和辞典』に「国字 また。=俣。」とあるが、いずれにも典拠はない。『中華字海』が『宋元以来俗字譜』を典拠に「同侯」とする。『異体字・崩し字に字源俗解を介した漢字の国字化』に「国字は元来、日本で作られた漢字をさす。しかし、漢字の異体字や行書体・草書体が日本で楷書として固定化したため国字とよばれるようになったにすぎないものがある。各氏が説く「俟」>「俣」「[俣−天+矢]」などの説が知られる」とある。中国では「侯」、日本では「俟」の異体字ということで、別字衝突であろう。『大漢語林』には「また。俣と同字。」、解字に「国訓で、中国のまつの意味の俟の字形を変え、またの意味を表す。」とある。『大漢語林』の「俟」には、国訓の表示はない。「俟」の字形を[俣−天+矢]に変え、「また」の訓をつけたということであろう。異体字に新しい訓を付け加えたものを国字とするという『大漢語林』の立場をあらわしているといえる。当辞典では、日本での「俟」から[俣−天+矢]への変化の方が、中国での「侯」からの変化より先であるということがわかれば、和製異体字とするが、後ということになれば、別字衝突であっても、国訓とする。[俣−天+矢]の中国の例より古い例をご存知の方は、ご教示いただきたい。『大字源』は、巻末の『国字一覧』にも「俣」のみで[俣−天+矢]を載せない。『新大字典』にもない。「俣」を参照。
【休−木+耶】 国字とされることもあるが、韓国南部の旧国名「伽[休−木+耶]」に関係する事物(伽[休−木+耶]琴など)に用いられる韓国国字である。
【働】 働(かせぎ)は、岡山県和気郡和気町の地名。『饅頭屋本節用集』・『増刊下学集』・『弘治二年本節用集』・『早大本節用集』・『天正十七年本節用集』・『異體字辨』・『和字正俗通』・『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「ハタラク」、『明応五年版節用集』・『大谷大学本節用集』に「ハタラキ」、『伊京集』に「ハタラク トウ」、『黒本本節用集』に「ハタラク 人―」、『永禄二年本節用集』・『堯空本節用集』・『両足院本節用集』に「[巷−己+土 ハタラク 動 働 訛]」、『運歩色葉集』に「ハタラキ 動 同」、『合類節用集』に「ハタラク 又[持−寺+養]同」、『同文通考』に「ハタラキ 活也動也」、『國字考』に「ハタラキ 古本節用集に見え(中略)人動乃意にて作れるものにてこれ又近き代の文字なるへし」、『倭字攷』に「ハタラキ 運動 和爾雅 続和漢名数 从人从動、会意也」とある。『和爾雅』には、「倭俗ノ制字」として「ハタラキ 動ノ字或運ノ字ヲ用宜」とある。『名義抄(観智院本)』で「ハタラク」の訓があるのは「跳・[鮎−占+各]」のみで「働」の字はない。このごろには「働」の字はまだなかったのであろうか。『中華大字典』・『中文大辭典』などに「日本字」とある。『字鏡抄』に「リョウ リャク 掠 俗 トフ ハコ ノリ コハシ カスム ウハウ カタム アツム ウツ」とあるのは別字を書写時に誤ったものか。『辞書にない「あて字」の辞典』が、梶井基次郎『書翰』・永井荷風『荷風随筆』から「自働車」と引用し「=自動車」、長谷川四郎『張徳義』から「自働的」と引用し「=自動的」とする。『運歩色葉集』に「ハタラキ 動 同」とある用法が、かなり近い時代まで残っていたことがわかる。このような事例に対して『大系漢字明解』に、「ドウ ハタラク 動の俗字なり。勞働、自働は勞働、自動なり。」とある。これらからすると、国字として作られたものではなく、「動」の和製異体字としてできたものが、「労働・働く」などの場合にのみ用法が残り、国字と考えられるようになったものとも考えられる。
【円】 『中華字海』が『清稗類鈔』を典拠に「同圓」とする。国字でないと考えられるが、「圓」から「円」に変化する途中の形といわれる[同−(一*口)+(丿*一)]の字形が中国の字典に発見できない。民間俗字として載らなかっただけとも考えられるが、あるいは、日本から逆輸入されたものが、『清稗類鈔』に載ったものか。『解説字体辞典』にも詳しい。[同−(一*口)+(丿*一)]は、『有坂本和名集』に「ヱン」とある。
【冷−令+土】 高知県高岡郡窪川町に[冷−令+土]の川(ぬたのかわ)がある。窪川町税務課及び町民課で聴取により調査した結果によると、辞書などにある「汢ノ川」はこの地名の誤りであることがわかった。この情報は、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも反映していただいたが、漢和辞典等で、このことを書いているものはない。
【冴】 『中華字海』に「同訝。見《日文漢字対照表》」とある。
【凧】 凧の峰(たこのみね)は、長野県佐々市の地名。『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「タコ」とあり、『国字の字典』が「紙鳶(たこ)」の意の国字とする。『日本人の作った漢字』は山田俊雄氏の『近世常用の漢字−雑俳『新木賊』の用字について−』から「いか」と引いて国字とする。『書言字考節用集』に「鳳巾 イカノボリ」とある。この字の省画合字か。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【凪】 『同文通考』に「ナギ 風止也」、『正楷録』(倭楷)に「奈気」、『國字考』に「ナキ 風止乃意」とある。名古屋市港区潮凪町など地名にも多く使われる。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【凩】 苗字に凩(こがらし)がある。『文教温故』に「こがらし 連歌の懐紙の爲メに造れる文字なるよしこれを新在家文字といふ」、『書言字考節用集』に「コガラシ 本朝俗字」・『異體字辨』に「コガラシ」、『同文通考』に「コガラシ 風木ヲ落ス也」、『和字正俗通』・『倭字攷』に「コカラシ」、『國字考』に「コカラシ 風木越吹乃意にて作る」とある。韓国でも日本の用法を輸入して漢字規格にも含まれている。『女真語言文字研究』を見ると女真文字にも似た形の文字があるが偶然類似したものであろう。国字であることに間違いはないと思われる。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【匂】 『中華字海』が『龍龕手鑑』を典拠に「同丐」とするほか典拠を示さず「同匈」とする。『篆隷万象名義』・『名義抄(観智院本)』などの日本の古字書にもこれらの解説がある。『名義抄(観智院本)』は、下に解説する字形で、「匂」を正(字)とし、「匈」のやや崩れた字形を今(字)とするが、逆ではないだろうか。『中華字海』で「同丐」・「同匈」とされる文字も、日本の国字とされる「匂」も元ととなった文字が崩れてできたほぼ同形の別字であると考えられるが、この辞典では国字とする処理をしない。同形別字であるか、国訓であるか明確な根拠を持って判断することができない文字がほとんどであるため、この辞典では、それらを全て国訓とする処理を行っているためである。韓国の漢字規格にもあるが、『漢韓最新理想玉篇』は日本字とする。『名義抄(観智院本)』に「カヽル アナクル カホル ニホフ マカル」、『異體字辨』に「ニホフ」とあるが、字形は、[句−口+ヒ]に近い形で、「ヒ」の第一画は、「一」の様に左から右に書かれた形なっている。『中華字海』が『龍龕手鑑』を典拠にする字形も最終画は、撥ねるものの、そのほかは、『名義抄(観智院本)』・『異體字辨』の字形と同じである。「同匈」とする文字は、国字とされる「匂」と全く同形である。『中華字海』は、日本の地名用字や、「常用漢字表」の字形を多く取り上げるが、この文字については、日本での用法を示さない。『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「ニホヒ」、[句−口+ヒ]の字形で、『拾篇目集』に「カク反 ニホヒ カタヒ コフ」とある。
【匁】 『日本人の作った漢字』が『近世常用の漢字−雑俳『新木賊』の用字について−』から「もんめ」と引いて国字とする。韓国の漢字規格にもあり、『漢韓最新理想玉篇』は日本字とする。「文メ」の合字とされることもあるが、実際には「錢」の異体字として同様な字体が、中国・日本ともに存在しており、その一つと考えられ、国字ではない。その実例を示すと『正楷録』・『倭楷正訛』に[匁−(匁−勹)+人]が、『天正十七年本節用集』などに[狩−守++ヽ]がある。『中華字海』は『篇海』を典拠に[狩−守++ヽ]に似た字形を示し「同錢」とする。『書言字考節用集』にも『中華字海』に近い字形である。『中華字海』・『書言字考節用集』は、第2画が第1画を貫かず、第3画・第4画で「从」の字の旁に近い字形をとる点では似た字形である。『中華字海』の字形は第3画が構えの内外を貫き、第4画が構えの外にあり、『書言字考節用集』の字形は第3画が構えの中にあり、第4画が構えの内外を貫く点がやや異なる。『書言字考節用集』は、「イチモンメ」の「モンメ」の外、「イッカンメ」の「メ」にもあてられている。「錢」の旁が崩れて、『中華字海』が典拠とする『篇海』の字形となり、それが『書言字考節用集』の字形・『正楷録』などの字形を経て現在の「匁」になったものと考えられる。以上から「匁」は「錢」正確にはその旁からできた文字で、「文メ」の合字説・「泉(せん)」の字が崩れてできたとする説・国字説は誤りであることがわかる。『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「モンメ」とある。
【句−口+タ】 NEC拡張文字にあるほか台湾の規格にあるが、『中華字海』には「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。『中華大字典』・『中文大辭典』・『臺語大字典』・『漢語大字典』などになく、台湾での意味用法等は未詳である。『世尊寺本字鏡』に「モチ音 ナシ」とあり、『古辞書音義集成』の索引では、「勿」とされている。『字鏡集寛元本』にも「モチ ソ 竈後穿 クトシ ナシ」とある。『「7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化拡張漢字集合(案)」の公開レビュー』が『第3・第4水準公開レビュー漢字用例集(案)』で久米正雄『学生時代』から「[句−口+タ]忙(そうぼう)」と引用している。前者(古辞書)は「勿」、後者は「怱」の異体字か。後者の用例として『日本大辭典言泉』から「[句−口+タ]遽(そうきょ)」・「[句−口+タ]劇(そうげき)」・「[句−口+タ]忙(そうばう)」が追加できる。これらの用字は、3語とも[句−口+タ]の部分が、[總−糸]・[怱]で始まる用字の後に最後の3番目にでてくる。『大辭典』は、「[句−口+タ]遽」のみ『日本大辭典言泉』と同じ用字であるが、他の語の用字は、「怱劇・[總−糸]劇」・「怱忙・[總−糸]忙・躁忙」となっている。『日本国語大辞典』は、「怱遽」はこの用字のみ示し、他の2語は、「怱劇・[総−糸]劇」・「[総−糸]忙」と用字を示す。このことから、[句−口+タ]の字は、大正ないし、昭和初期までは、「怱」などのかわりに使われたことがあるが、昭和10年代から遅くとも戦後には一般的な用字ではなくなってきたことがわかる。『日本大辭典言泉』においても、[句−口+タ]で始まる語は、この3例のみで、「怱」などのかわりにこの字が常に使えるというのでもないようだ。この3語は、「忙しい・せわしい」の意を表す語で、この場合に限定して用いられた特殊な用字法であったともいえる。
【区】 『漢語大字典』・『中華字海』に「區的簡化字」とあるが、『中華大字典』にはない。『宋元以来俗字譜』所収の『古今雜劇三十種』に似た字形として[区−メ+ヌ]がみられるが「区」はなく、偏などにある場合も同様である。『簡化字源』に「1935年制訂的《手頭字第一期字彙》首次提出與現行簡化字完全相同的“区”字」とあり、中国においては、ごく新しい字形であることが推量される。
【叺】 『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「カマス」とあり、『国字の字典』が「蒲簀」の意の国字とする。『字彙補』に「音尺」とあるほか、『漢語大字典』などが『篇海』などを典拠に反切を示している。国字ではない。『名義抄(観智院本)』・『字鏡鈔』では未詳となっており、『運歩色葉集』に「ドット」、『音訓篇立』に「ハツ反」とある。『運歩色葉集』の注文は、鬨(とき)の声を一度にあげたりする意であろうか。『音訓篇立』の音注は、「叭」との関係も考えられる。「かます」の意で作られた文字でないことは確かであろう。中国で義が失われ、音のみ残る文字であるので、国訓といえるか否か不明である。苗字に叺田(かますだ)・叺村(うねむら)がある。後者は「畝」の異体字[田+人]に関係があるのだろうか。
【吋】 「インチ」の意の音訳字。『漢語大字典』は、『篇海類編』などから「叱也」などと引用するほか、英寸的旧称とする。外来語に口偏をつけてその音を表すことは台湾・香港を含め中国南部の地域でよく行われることであり、国訓なのか中国で使われ始めたものなのかはっきりとしない。
【听】 「ポンド」の意の音訳字。『漢語大字典』は、『説文解字』を典拠に「笑貌」、『廣韻』を典拠に「口大貌」、『玉篇』を典拠に「仰鼻」、『正字通』を典拠に「同聽」とするが、ポンドの意の解説はない。『大漢語林』は、「ポンド(封度)。イギリスの貨幣、又重さの単位Poundのあて字。」として日本での用法とする。「吋」を参照。
【呎】 英米の尺度の単位「feet(フィート)」の意の訳字。『角川漢和中辞典』に「国字 フィート(下略)」、『旺文社漢和中辞典』に「国字 シャク フート フィート(中略)国字であるが中国でも用いる。」、『大漢語林』に「セキ フィート(下略)」とある。『漢語大字典』に「英尺的旧称」、『中華字海』に「英制長度単位之一,今写作英尺」とある。[叺−入+升]とともに単位をあらわすためにのみ使われる文字か。「吋」を参照。
【叺−入+升】 英米の容積の単位「gallon(ガロン)」の意の訳字。『角川漢和中辞典』に「国字 ガロン(下略)」、『旺文社漢和中辞典』に「国字 ショウ ガロン(中略)国字であるが中国でも用いる。」、『大漢語林』に「ショウ ガロン(下略)」とある。『漢語大字典』に「英、美容量単位加侖(Gallon)的旧訳名。」とあり、『中華字海』も同様である。「呎」とともに単位をあらわすためにのみ使われる文字か。『文字ノいろいろ』(國字)に「グラム」とあるのは、誤りであろう。「吋」を参照。
【咄】 「はなし」の意の国字とされることがあるが、『説文』にもあり、咄嗟などの熟語を作る漢字であり、「はなし」は国訓である。『名義抄(観智院本)』に「アヤニク ヤ」とある。なお「噺」は国字である。
【叺−入+打】 「ダース」の意の音訳字。『字彙補』に「飛[叺−入+頼(旧字体)][叺−入+打]倭地名音闕」とあり、日本の地名用字として諸書に引用されるが、読みは不明である。長崎の平田のことであろうか。「吋」を参照。
【叺−入+它】 『国字の字典』が『広辞苑』から「叱―(しった)。怒気をあらわして大声でしかること。叱―激励。」と引き国字とする。『龍龕手鑑』に「[叺−入+它][施−方+口]二俗音[施−方+(阿−可)]」とある。国字ではない。
【哘】 苗字に哘(こうなら・さけび・さそう)、哘崎(こうさき・さそざき・ゆきざき)がある。哘(さそう)は青森県上北郡天間林村の地名。丹羽基二編著『姓氏の由来事典』(県別姓氏青森県)に哘(さけび)がある。青森地方の方言字のようにも見えるが、『名義抄(観智院本)』に「サソウ」、『字鏡鈔』に「カタシ」とあり、地域的な文字ではない。国字であることに間違いないと思われるが、古壮字にも「欺侮・欺負」の意である。
【哩】 『漢字要覧』を典拠に『国字の字典』が「マイル」の意の国字とする。『龍龕手鑑(朝鮮本)』に「力忌切出陀羅尼経」とある。国字ではない。『名義抄(観智院本)』に「[哩−田+日] 哩 俗 ヒソカニ」、『字鏡鈔』に「力忌反 ヒソカニ」、『法華三大部難字記』に「月ノクルマ」とある。(解説途中)
【喰】 『龍龕手鑑』に「[殊−朱+食]音孫以飲澆[飯−反+卞]也 喰同」とあり、国字ではない。『漢語大詞典』などに『敦煌変文集』からの引用もあり、『中華字海』は「音餐同餐」とする。音のみ伝わっている文字とは異なる。なお意味的にも近く、国訓ともいえないであろう。
【噸】 1トン(屯)の意。笹原宏之著『メートル法単位を表す国字の製作と展開』に「国字でないようで、ロンドン・レキシングトンなどの音訳に使われ、かつヤード・ポンド法の重量・容量・積載能力にも使う」とある。高松政雄著『倭字小考』に「近代の「働」や「噸」はこちらから輸出したことが明らかである」とある。国字であるにしてもそうでないにしても地名のあて字の用例は、明治元年までは遡ることができる。
【噺】 苗字に噺(はなし)がある。『正楷録』(倭楷)に「法奈矢」、『和字正俗通』・『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「ハナシ」、『倭字攷』に「ハナシ 燕石雑志」、『大系漢字明解』に「ハナシ 亦邦字なるべし 新話の義か。」とある。韓国の規格にもあるが、『漢韓最新理想玉篇』に「日本字 古談」とある。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【囎】 苗字に囎唹(そう そお)・囎田(しょうだ)がある。囎唹(そお)郡は鹿児島県曽於郡の旧表記。
【囲】 『中華字海』が『篇海類編』を典拠に「音通。策」、日本の『同文通考』を典拠に「音圍。同圍」とする。後者の意味に対する典拠がたまたま見つからなかったのであろうか。日本からわたった用法とも考えられる。
【国】 『国字の字典』が「國」の意の国字とする。『同文通考』の省文にある字形は、『簡化字源』が南北朝碑刻からとする字形とほとんど同じである。常用漢字と同じ字形も『簡化字源』が敦煌の変文から引用している。「國」の異体字に関する詳しい研究論文に笹原宏之著『字源説、字源意識、文字に対する意識が字体に与えた影響−「國」の異体字に関して−』がある。この論文でふれられる「國」の異体字は、中国典拠のものが25種類、日本典拠のものが25種類、重なりを省けば35種類で、「國」を含めれば36種類が考察の対象とされている。重複するものの一部は、日本典拠のものの方が中国より古いが、ほとんどは中国からもたらされたもので、「国」もそのひとつである。中国では、六朝時代頃までさかのぼれるが、日本では平安時代までということである。全くの漢字であると考えられる。
【国−玉+書】 図書館の意味で1925年頃作られた漢字で、中国人杜定友の作であることが昭和初期の雑誌『[国−玉+書]研究』に出ており、同書によると『[国−玉+書]』という雑誌名に使われ、日本で普及したため、中国でも日本字と思われていたことがあるようだ。JIS補助漢字にあるほか、台湾の漢字規格にもある。
【圦】 苗字に圦(いり ふけい ふせ ふせい ゆり)がある。『書言字考節用集』に「イリ 本朝ノ俗字。音義未詳」、『和字正俗通』(妄制)に「イリ」、『倭字攷』に「カマス イリ」とある。
【圷】 苗字に圷(あくつ)がある。圷(あくつ)は、地名としても茨城県多賀郡東海村ほか茨城県内各地に多く点在し、栃木県でも見られる。上圷(かみあくつ)は、茨城県東茨城郡桂村の地名。
【圸】 山形県長井市大字小出に字圸の上(ままのうえ)がある。
【圦−入+丸】 苗字に[圦−入+丸](くろ)がある。三ツ[圦−入+丸](みつぐろ)は、倉敷市の地名。国字ではあろうが、「塊」の意で字喃にある。
【垉】 『龍龕手鑑』に「歩交反」とあるが義未詳であり、『漢韓最新理想玉篇』には「掘也」とあるが典拠が示されていない。『名義抄(観智院本)』・『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』など日本の古字書にも「歩交反」と反切を示すものがあり、中国の影響と考えられるが、『漢韓最新理想玉篇』の意味と一致するものはない。『音訓篇立』に「ツカル カフル」とある。愛知県豊田市東保見町に字垉六(ほうろく)がある。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来知られていなかったが、この地名から1978JISに採用されたものである。『国土行政区画総覧』は1979.04に「[圦−入+包]六」に1993.10に「抱六」にかえられたが、役所のオンラインでは「[圦−入+包]六」となっているという」とある。
【垈】 『音訓篇立』に「ヌク」とある。「ヌタ」の誤りか。『広漢和辞典』に「国字 ぬた 沼田。湿田」とある。地名として『広漢和辞典』に「山梨県北巨摩郡の大垈(おおぬた)」、『国字の字典』に「山梨県八代郡境川村の藤垈(ふじぬた)」がある。『中華字海』が『元史』を典拠に「音代。地名用字[落垈村]」とする。韓国では敷地の意味で使われる。日本では地名として使われるほか古字書で名詞的に用いられている例もある。国字とするか否か微妙な文字である。
【垳】 苗字に垳(がけ)・垳田(いけた いけだ いげた がけ)がある。埼玉県八潮市に大字垳(がけ)がある。『日本人の作った漢字』が、東京に垳(がけ)の地名があるというが、発見できない。『色葉字類抄(永禄八年写二巻本)』に「土行 ツチクレ」とある。土塊(つちくれ)や岩がむき出しになった急傾斜地が崖(がけ)であるから、「土行」を合字して「垳」をつくり、「がけ」の意にしたものか。『伊呂波字類抄(大東急記念文庫本)』(十巻)に[圦−入+片]と「垳」の中間的な字形で、「ヒハレタリ ヒハル」とある。
【垪】 苗字に垪和(かきわ はが へいわ)・垪和垪(はかい はがい)・垪賀(はが)がある。垪和(はが)は岡山県久米郡旭町の地名。国字とされることも多いが、『龍龕手鑑』に「音[圦−入+冗]」とある。国字ではない。『名義抄(観智院本)』に「俗瓶字 ヒトシ」、『字鏡鈔』に「ヒャウ ヘイ 瓶ほか三字に同じ ヒトシ カメ ツタヘ カイ」、『字鏡集寛元本』に「音ヘイ ヒャウ 瓶ほか三字に同じ ヒトシ カメ ツルヘ カイ」、『拾篇目集』に「ヒトシ チリ」とある。
【垰】 丹羽基二著『日本姓氏大辞典』に垰(あくつ たお たわとう とおげ)・垰田(くわだ たおだ たかだ たわだ)などの苗字があり、地名にも多く使われる使われる国字。『文明本節用集』に「タウ」とある。意味的に「峠」に近いが、地域によっては使い分けがあるなど、同義の異体字というわけではない。また『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「姓で、垰から峠へ職権訂正された戸籍が、再び垰に戻された事例がある」とある。『文明本節用集研究並びに索引』の索引篇の表記が、「峠」となっているのは問題である。西村寿行『垰(たわ)』に「垰(たわ)がある。垰と峠は同義語である。ほかにも乢、[岬−甲+乙]、屹、嵶、[遖−南+山]などがある。たお、たわ、とう、だわ、などと読んでいる。いずれも山の鞍部(コル)のことをさしているといわれている」とある。小説内の文章ではあるが、「同義語」とあるのを「類義語」と直すのみで、かなり適切な解説になると思われるので、引用した。
【】 『国字の字典』が、福島県白川郡矢祭町大字大(おおぬかり)を地名典拠として国字とする。『類篇』・『集韻』・『朝鮮本龍龕手鑑』などが、「[圦−入+隶]也」とする。国字ではない。
【圦−入+赤】 [圦−入+赤]下(はけした)は埼玉県狭山市の地名、大[圦−入+赤](おおはけ)は埼玉県川越市の地名。苗字に[圦−入+赤]下(はけした)がある。古壮字の[圦−入+赤]は[凶−メ+赤]の異体字。
【圦−入+谷】 苗字に[圦−入+谷](えき さこ はざま)・[圦−入+谷]口(さこぐち)・[圦−入+谷]田(さこた)・尾[圦−入+谷](おさこ)がある。『中華字海』に「日本地名用字〔登[圦−入+谷]〕在岡山県」とある。国字であることは間違いないであろうが、字喃に「酒杯」の意の熟語を作る文字としてある。
【埖】 青森県三戸郡福地村字埖渡(ごみわたし)などの地名に用いられている。[圦−入+危]などの崩れた字形を楷書化してできた文字とも考えられる。
【塀】 『名義抄(観智院本)』に「俗屏字 必郢反」、『字鏡鈔』に「ヘイ 屏同 カクル カキ サク カラス カハヤ マカキ サヘル ニカウ ヘタツ オサヘ シリソク ノソム」、『運歩色葉集』・『大谷大学本節用集』・『永禄二年本節用集』・『和字正俗通』(借字一)に「ヘイ」、『新刊節用集大全』に「へい」とある。『龍龕手鑑』に「必郢反」とあるほか、『漢語大詞典』に「人名用字。明代有朱邃塀。《明史》」とある。『漢語大詞典』の人名例は影響が考えられないが、『龍龕手鑑』は日本の音「ヘイ」と反切が一致しており、影響が考えられる。字音をそのまま訓としたものか。国訓と考えられるが、中国で字義が失われており、確たる事はいえない。『字通』にも「字は『龍龕手鑑』にみえ、人名に用い、明史に「朱邃[塀(旧字体)]」という名がある。」とある。
【塰】 苗字に片塰(かたあみ かたうみ かたおか)、塰泊(あまどまり)などがある。塰泊(あまどまり)は鹿児島県西之表市の地名。
【墸】 「躇」の異体字とされるが典拠を示してあるものはなかったが、『集韻』の一本に「墸」があることを笹原宏之氏からご教示された。ただ止偏の誤刻と考えられ、別本にはないそうである。『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に詳しい。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【墹】 苗字に墹仲(ままなか)がある。静岡県田方郡伊豆長岡町墹の上(ままのうえ)など静岡県では数十カ所の地名にも用いられている。『難訓辭典』に伊豆國君澤郡墹上(マノウヘ)村とある。『明朝体活字字形一覧』の「博文四号1914年」にこの文字がある。
【壗】 神奈川県南足柄市に字壗下(まました)がある。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【壥】 「廛」の異体字とされることが多いが、典拠が示してあるものはなかった。『米沢文庫本倭玉篇』に「[圦−入+(壥−黒〈旧字体〉+黒)] テン イル イチクラ」とあり、初めて典拠が発見できた。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。日中ともに「纒」が「纏」の異体字であることからしても、和製異体字とは考えられない。『米沢文庫本倭玉篇』の例は、『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』にも採用されたが、完全には同じ字形ではない。『明朝体活字字形一覧』の「博文四号1914年」に「壥」の活字がある。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【塰−土+士】 苗字に[塰−土+士]泊(あまどまり)がある。『温故知新書』・『易林本小山板節用集』に「アマ」とある。後者は二字にも見え、前者は、「母」ではなく「毋」になっている。『運歩色葉集』にあるが、完全に二字であり、これも「母」が「毋」になっている。『両足院本節用集』の索引に「アマ」とあるが、影印では読みの「アマ」が読めるのみで、字形はわからない。「塰」参照。
【妛】 苗字に妛芸凡(あきおうし)がある(丹羽基二著『苗字 この不思議な符牒』(丹羽基二編『日本苗字大辞典』は[山*女]芸凡とする)。[山*女]の字は、『中華字海』が魏時代の墓誌に見られる文字として「同安」とする。苗字の例も「安」の異体字と考えられる。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、「従来[妛−山+屮]の異体字とされていたが、原典とした『国土行政区画総覧』で滋賀県犬上郡河内通称[山*女]原(あけんばら)の[山*女]の字の作字をした際に紙の影が写り、JIS選定時に「妛」と誤認され転写されたのである」とある。「妛」の字で、『字鏡鈔』・『字鏡抄』・『字鏡集寛元本』に「シ 之 アサムク」、『字鏡集白河本』に「シ アサムク」とあり、この場合は[妛−山+屮]の異体字であろうか。また[山*女]の字で、『名義抄(観智院本)』などに「アサムク」、『温故知新書』に「アケヒ」とある。その他実例は笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に詳しい。
【姉】 『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。『康煕字典』など女偏の4画に掲出されながら「姉」の字形をとるものがある。和製異体字というわけではない。
【好−子+感】 『万葉集』などで「おとめ」の意に使われる国字である。『漢語大字典』などが「同[好−子+今]」とするが、典拠は新しく清代の『河南府志』である。国字といえる。『倭字攷』に「萬葉一(中略)[好−子+感]嬬(中略)萬葉巻一ナル歌、巻十五ニ重出シテ、假字に乎止女(オトメ)トカケリ、コレニテ[好−子+感]嬬ノ読ミヲシレリ、字書ニ[好−子+感]ノ字ナシ(中略)感嬬トカキケンヲ、感ノ字嬬字ニアヤマリテ、女ニ从ヒ[好−子+感]トカケル(下略)」とある。
【嬶】 『国字の字典』が『大字典』から「かか 国字 卑しき人が妻を呼びて言う語。(略)夫に対して鼻息の荒き女房の義か」と引く。『新撰字鏡天治本』に「[嚊+(謁−言)−口] 信割反入波奈久支又波奈弥祢 嬶 上字同」とあり、国字だとしても鼻息の荒い女の意で近代作られたとする俗説はしりぞけられなければならない。『大漢語林』に「国字 かかあ。かか。妻の俗称=嚊」、『旺文社漢字典』に「国字 かかあ」とあるのは妥当なところであろうが、解字で、『大漢語林』が「会意。女+鼻。鼻に女をつけて、鼻についた女、かかあの意味を表す。」、『旺文社漢字典』が「会意。女と鼻とを合わせて、鼻息のあらい女性の意という。」とするのは、正確ではないし、妥当でもない。『学研現代新国語辞典』に「かかあ【嚊・嬶】〔俗〕庶民社会で、妻を親しんで呼ぶ語。かか。(下略)」とあるほか、国語辞典では、「親しんで呼ぶ」とするものなど、「かかあ」ということばに好意的な解説が多いが、漢和辞典では、字面に引かれたのか、そうではない解説が多い。『新撰字鏡天治本』にあることを知らずに、同形別字でそのような意味で造られた可能性があるにしても、『新撰字鏡天治本』にあることや、国語辞典の好意的な解説などを排除して、「鼻についた女」・「鼻息のあらい女性」といった解説をすることは好ましいこととは考えられない。『中華字海』に「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。
【宝】 『中華大字典』に「俗寶字」、『漢語大字典』・『中華字海』に「寶的簡化字」とある。これらには典拠がないが、『宋元以来俗字譜』が調査対象とした12種の文献全てに「寶」の意で現れてくるポピュラーな俗字といえる。漢字そのものであり、『宋元以来俗字譜』も入手困難な書籍ではないが、漢和辞典等には典拠が添えられていないので、引用しておく。
【宝−玉+(畄−田+ホ)】『國字考』に「ウツホ」とあり、『国字の字典』が「羽壺」の意の国字とする。
【鼡】 『色葉字類抄(永禄八年写二巻本)』に「天鼡矢 クス子」とある。『大漢語林』に「ソ 鼠の俗字」とあり、「鼠」の一異体字にすぎないと考えられるが、『中華字海』には、「音義待考。字出《ISO-IEC DIS 10646通用編碼字符集》」とある。あるいは、和製異体字かとも考えられるが、[蝗−皇+鼡]が『中華字海』にあることからすると断定はできない。
【乢】 苗字に乢(たわ)がある。『国字の字典』は、「鳥取県岩美郡岩美町高住字乢(たわ)」などの地名を国字としてあげるが、同書には、『康煕字典』にあることも書かれている。『大修館現代漢和辞典』国字索引や『新字源(新版)』・『漢語林』の「国字・国訓一覧」も国字とする。『漢語大字典』が『龍龕手鑑』を引いて「音盖」とし、『中華字海』が『朝鮮本龍龕手鑑』を典拠に「同丐」とする。国字ではなく、国訓であると考えられる。
【屶】 山刀(なた)の合字で、なたの意を表し、苗字や地名に用いられる。『龍龕手鑑』に「音会」、『中華字海』に「同会」とあり、国訓である。笹原宏之著『「JIS X 0208」における音義未詳字に対する原典による同定』に、JISの典拠として『国土行政区画総覧』から山形県長井市九野本通称屶柄(なたづか)が引かれている。ただ原典の『国土行政区画総覧』は「屶」の「刀」を「力」に誤植しているとのことである。
【岼】 苗字岼(ゆり)や京都府天田郡三和町の地名岼(ゆり)に使われる。国字とされることが多く、『中華字海』にも日本地名用字とある。『新撰字鏡小学篇』・『世尊寺本字鏡』に「彼萠反豆也」とある。この「豆」は「たかつき」のことと考えられる。山腹にある「たかつき」の様な上の平らな地形という意味で、この字が当てられたのかもしれない。反切もあることから、佚存文字に対する国訓ということも考えられる。
【峅】 苗字に岩峅(いわくら)がある(丹羽基二著『苗字の謎(珍姓富山県)』)。岩峅寺(いわくらじ)・岩峅野(いわくらの)・芦峅寺(あしくらじ)は、富山県新川郡立山町の地名。『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「クラ」とある。
【岾】 大岾(おおはけ)・岾野(はけの)は埼玉県所沢市大字南永井の小字、岾(はけ)は同市大字坂ノ下の小字(所沢市役所にて調査)。JISの原典典拠の京都市左京区浄土寺広岾町(じょうどじひろやまちょう)は『JIS X 0208:1997附属書7(参考)区点位置詳説』に「現在では広帖町(こうちょうちょう)に改められている」とある。『世尊寺本字鏡』に「コ音 古都反 [岬−甲+己]也 无草山」、『篇目次第』に「テウ反ヤマ」、『法華三大部難字記』に「タカシ」とある。[岬−甲+古]などの異体字であろうか。国字といわれることもあるが、嶺の意の地名用字として永郎岾・楡岾寺が韓国にあり、即断はできない。音をセンとつける字書があるが、典拠はあるのだろうか。
【峠】 中峠(なかびょう)は千葉県我孫子市の地名。『運歩色葉集』・『異體字辨』・『漢字の研究』(我國にて制作したる漢字)に「タウゲ」、『合類節用集』に「タウゲ 字未詳或ハ倒下ト曰」、『同文通考』に「トウゲ 嶺也嶺ハ高山之踰テ而過ク可キ者也」、『和字正俗通』に「トウケ」また対応する漢字として「嶺」、『倭字攷』に「タウケ 嶺 ○和爾雅 和漢名数 音訓國字格(中略)从山从上下、皇國會意之字」とある。『和爾雅』には、「倭俗ノ制字」として「タウゲ 嶺ノ字ヲ用宜」とある。韓国の漢字規格にあるが、『漢韓最新理想玉篇』は日本字とする。『中華字海』にもあるが典拠がなく、新しい文字か日本の国字を輸入したものか。国字であると考えられる。
【嵶】 『地名レッドデータブック』に岡山県荘内村迫間嵶(はざまだお)・同県可知村鳥打嵶(とりうちとうげ)・同県鶴山村嵶山(たおやま)などがある。
【広】 『中華字海』に「同廣。見日本《常用字表》」とある。『中文大辭典』に「廣之簡字」とある。和製異体字か否か難しいところである。
【応】 『中華字海』に「同應。見日本《常用漢字表》」とある。和製異体字か。
【弖】 『龍龕手鑑』に「互戸二音」とある。「低・砥など」の旁が「弖」になることは、日中ともにあることで、「弖・[休−木+弖]・[石+弖]」はそれぞれ「[砥−石]・低・砥」の異体字で、国字ではない。[休−木+弖]を参照。
【彁】 謌の草書体を介してできた異体字とするなどして「音カ」とするものがあるが、それ以上の根拠があるわけではない。「JIS X 0208-1997」で典拠・暗合及び何らかの文字の誤記であることがわからなかった唯一の文字である。
【往−主+建】 『最新JIS漢字辞典』が「健」の意の国字とする。『正字通』に「健 俗作[往−主+建]」とある。『同文通考』にもやや崩れた字形で、「タケシ 俗ノ健ノ字」とある。漢字そのものである。
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